株式投資と認知バイアス:バイアスに打勝たないと株で勝てない?

Uncategorized

株式投資は、リスクとリターンを天秤にかけながら、様々な情報を集め、適切な(と思いこんだ)戦略を用いて投資先を決め自身の貴重な資金を投下したり、売却して利益確定あるいは損切といった判断を行います。

個々の投資家は、自身の利益を最大化するため合理的な投資判断を行っているはずですが、一般に株式投資を行う個人投資家の8割は損をしているといわれています。株式投資は基本的にはプラスサムゲームであり、自然に考えれば5割以上の投資家は勝っていなければなりません。

このような結果になってしまうのはなぜでしょうか?

原因の一つとして、私たちの心理的な傾向や先入観、いわゆる「認知バイアス」によって合理的な投資判断ができていないということが考えられます。この記事では、バイアスについて深堀りしてみます。

このバイアスは、私たちが株式投資にあたって判断するための情報を選択的に受け取り、あるいは誤って解釈することを促し、結果として誤った投資判断を下すことにつながります。そのため、バイアスの理解とその克服が投資成功の一歩となるのです。 それでは私たちの投資判断をゆがめる認知バイアスについて学んでいきましょう。

確証バイアス

「確証バイアス」は、人が自分の信念や考えを支持する情報を優先的に探し、その情報により強く信じ込む傾向を指します。この確証バイアスが強く作用すると、投資家は自分の投資判断を裏付ける情報ばかりを重視し、それに反する情報を無意識的に軽視または無視することになります。これにより、総合的な視点からの情報分析や客観的な投資判断が難しくなります。

具体的な例として、ある投資家が特定の銘柄に対して強くポジティブな見方を持っていたとします。その投資家は、その銘柄の成長性や業績向上についての情報に強く引き寄せられ、それらを自身の投資判断の正しさを証明する「確証」として解釈します。

その一方で、同じ銘柄に関する悪いニュースや市場の悪化、競合他社の台頭といった投資判断にとっては否定的な情報については、目を背けたり、その影響を軽視したりする可能性があります。

そして、銘柄選択の段階で確証バイアスにより一方的な情報に基づいて投資を行い、その銘柄が実際には思ったよりもパフォーマンスが低い場合の投資行動について考えてみましょう。ある投資家は、自分の判断が正しいという信念が強いため、一時的な下落は必ず回復すると過度に楽観的になり、適切なタイミングでの損切りができなくなります

具体例として、あなたがある銘柄を購入した後、TwitterやYahooファイナンスなどの掲示板に投稿されたポジティブな情報を、自分の購入判断を裏付ける情報として積極的に探し出し、その情報をもとに自身が下した判断は間違ってなかったと強く思い込むというケースは思い当たりませんか?

しかし、そのような情報は一方的であることが多く、全体像を把握するためには必ずしも十分とは言えません。同じ情報ソースからネガティブな意見や、他の信頼できる情報源からの独立した視点を探ることを怠れば、その銘柄の真実の価値を見誤る可能性があります。

損失回避バイアス

「損失回避バイアス」は、投資家が利益を得る喜びよりも損失を被る恐怖を強く感じる心理的な傾向を指します。これが強く作用すると、投資の結果に影響を及ぼし、しばしば投資の失敗を招くことがあります。

一つ目の観点は、上昇している銘柄を早く手放してしまうという行動です。投資家は早期に利益を確定させたいという心理から、その銘柄のさらなる上昇の可能性を逃すことがあります。例えば、ある銘柄が短期間で10%上昇したとします。損失回避バイアスが強い投資家は、この10%の利益を確定させるために早期に売却してしまうかもしれません。

しかし、その銘柄がさらに上昇し、長期的には30%や50%のリターンを生み出す可能性があった場合、早期の売却は大きなチャンスを逃したということになります。

二つ目の観点は、損している銘柄を手放さず、損失を拡大してしまうという行動です。投資家は一度投資した銘柄が下落しているとき、損失を確定させたくないという心理から、適切なタイミングで損切りを行わず、さらなる損失のリスクに晒します

例えば、特定の銘柄が投資時点から20%下落したとします。損失回避バイアスが強い投資家は、この銘柄が再び上昇することを期待し、損切りをせずに持ち続けることを選びます。しかし、その銘柄がさらに下落し、結果的に30%や40%の損失を被ってしまうことはよくあります。

ヒューリスティック

ヒューリスティック(Heuristic)は、情報を素早く処理するための「近道」や「手がかり」を使って意思決定を行う心理的な傾向を指します。これは一見効率的に見えますが、正確な判断を損なう可能性があります。ヒューリスティックにはさまざまな種類がありますが、ここでは特に投資に関連する3つのヒューリスティック、すなわち、利用可能性ヒューリスティック、代表性ヒューリスティック、固着性ヒューリスティック(アンカリング)について説明します。

  1. 利用可能性ヒューリスティック: これは、人々が直近の情報や印象的な情報に基づいて判断を下す傾向を指します。投資の世界では、株式市場が連日大幅に上昇した直後に投資を開始した個人投資家が、「市場は常に上昇する」という誤った認識を持つ例がこれに該当します。この認識に基づいてリスク管理を怠った投資行動をとると、市場が調整に入った時に大損する可能性があります。
  2. 代表性ヒューリスティック: これは、特定の情報が一つのカテゴリーやパターンを代表すると誤って認識し、それに基づいて判断を下す傾向を指します。投資の世界では、一部のテクノロジー企業が大成功を収めたという情報から、全てのテクノロジー企業が高成長・高収益を達成すると誤解し、過度にそのセクターに投資する傾向があります。これにより、セクター全体が過熱した時に大きな損失を被る可能性があります。
  3. 固着性ヒューリスティック(アンカリング): これは、最初に提示された情報に自分の思考や判断が固定化(アンカリング)し、それが以降の情報解釈や決断に影響を及ぼす傾向のことを指します。投資の世界において、この現象は個人投資家の行動に様々な形で現れます。例えば、株の購入価格(アンカー)に思考が固定化し、その価格を下回ったときでも将来的には購入価格に戻ると信じ、損切りを避ける行動を取ることがあります。逆に、監視している銘柄が購入を考える前に大幅に上昇したとき、その株価が客観的にはまだ割安であるにもかかわらず、自身のアンカーとなっている直近の株価から見て上昇しすぎていると感じ、購入するチャンスを逃すこともあります。これらの行動は、銘柄の真の価値や市場状況に基づく適切な判断を阻害し、取引に無駄なコストを発生させるだけでなく、利益を生むチャンスを見逃す可能性もあります。

固着性ヒューリスティックは株式投資を行ううえで最も厄介な敵です。直近の印象的な事例として、Abalance(3856.T)の2023年2月から4月の動きを見てみましょう。

Abalanceは2023年2月13日に業績予想を大きく上方修正し、直後に株価は大きく上昇しました。この銘柄を監視していた投資家は直近の2000円台の株価をアンカリングしてしまい、3000円台後半まで上昇してしまった同社の株を買えません。

客観的に開示された情報をもとに分析すれば、この3000円台という株価はまだ安かったことになりますが、固着性ヒューリスティックのために、多くの投資家は同社の株価は高すぎると判断し、その後さらに大きく上昇した際の利益をとり逃してしまうのです。

認知バイアスを克服する

認知バイアスは、私たちが情報を解釈し、意思決定を行うときに自然に発生する心理的な傾向です。そのため、これを完全に排除することは困難かもしれませんが、以下のような手法を通じてその影響を緩和することは可能です。

  1. 自己認識: 自分自身が認知バイアスの影響を受けやすいことを認識することが第一歩です。無意識のうちに自分の判断がバイアスによって歪められていることを理解することで、客観的な判断を下すための道筋をつけることができます。
  2. 情報源の多様化: 自身の投資判断を裏付ける情報ばかりに偏るのではなく、様々な視点からの情報を集め、それを比較・検討します。これにより、確証バイアスの影響を減らすことができます。
  3. 明確な投資戦略の設定: 投資の目標や戦略を明確に設定し、それに基づいて決断を行います。損失回避バイアスやアンカリングを緩和するためには、投資の売買タイミングを自分の感情ではなく、明確なルールや戦略に基づいて決定することが有効です。
  4. 時間的距離を置く: 一時的な市場の騒動や、人々の意見に左右されるのを避けるためには、時間的な距離を置くことも有効です。具体的には、投資判断を急ぐのではなく、情報を一度冷静に見直し、その後に判断を下すことで、情報の誤解や過剰な反応を防ぐことができます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました