はじめに
投資において資産形成王道であるインデックス投資で推奨される投資手法として、毎月均等の金額を購入する「ドルコスト平均法による積み立て」があります。
本記事では、ある一つの疑問に切り込みます。「成長株におけるドルコスト平均法による積み立ては本当に機能するのでしょうか?」
積み立てにより、成長株投資で最も難しい「買い時」についての悩みを解消することができます。そして最も重要なこととして、成長株特有の激しい株価の上下に振り回されず、心の安定を保ちながら資産を増やすことができます。(もちろん長期成長銘柄を購入できていればですが)
投資信託と異なり個別株投資の場合残念ながら、ぴったり一定金額で毎月購入することはできません。また日本株の単元は100株単位のため、1株単位で購入できる証券会社で購入する手間が発生することに留意してください。
ドルコスト平均法について
ドルコスト平均法とは、一定額を継続して投資することで、リスクを時間分散して投資する手法です。例えば毎月10万円をある銘柄に投資する場合、株価が500円のときは200株、1000円の時には100株といったように株価が安い時には多くの株数を、高い時には少ない株数を購入することになります。
この手法の大きな利点は、全資金を特定の時点で投入するのではなく、時間を通じて分散投資することで市場の上下動による影響を軽減できる点です。一度に大量の資金を投入すると、そのタイミングが市場の高値であった場合、大きな損失を被るリスクがあります。しかし、ドルコスト平均法ではそのリスクを分散し、長期的には市場の平均的な価格で資産を積み上げることが可能となります。
成長株の価格は急上昇することもあれば急落することもありますが、ドルコスト平均法を用いれば、高値で買うリスクを抑えつつ、安値で多く購入する機会も得られます。市場の動きを予測し的中させるのは実際のところ不可能なため、ドルコスト平均法により、その難しさをある程度回避することが可能です。
過去の成長株積み立て:成功事例と失敗事例
それでは実際あなたが2014年3月時点に、長期成長株として目を付けた次の2銘柄についてドルコスト平均法で積立投資をした際のシミュレーションを見てみましょう。2023年の結果からすると、かたや10バガー、かたや1/2と対照的な2銘柄を選んでいますが、2014年当時はそれぞれの株価がどうなるか、当然わかっていない状態でスタートしています。
- 開始:2014年3月 終了:2023年6月末 各銘柄毎月5万円に最も近くなる単元で購入
- 選定銘柄:サイバーダイン(7779.T)、GMOペイメントゲートウェイ(3769.T)
- 結果(2023年7月21日時点)
成功例のGMO-PGについて、ドルコスト平均法で投資したため、最大利益について一括投資に比べ1/4になってしまっています。これほど成長した銘柄で最終損益率215%というのは少し物足りない結果なのかもしれません。
一方で最大含み損失は、一括投資の場合投資の開始翌月いきなりマイナス150万円という状態に陥ることになり、投資初心者の場合ここで狼狽して損切してしまうと思われます。ここで損切したことでその後得るはずであった7000万円もの利益機会を失ったことになります。積み立て投資の場合、最大含み損失はマイナス1万4千円程度となり、投資開始後のマイナスはむしろ好機とばかりに、安心して積み立てを続けることができたでしょう。幸いにしてこのタイミングが底でGMO-PGの積み立て投資は常にプラスの状態を維持することになりました。
失敗例のサイバーダインについて、こちらも投資開始後は順調に株価は上昇するものの、2016年6月の高値をつけたあと下落の一途をたどることになりました。高値まではほぼGMO-PGと同じ上昇率を示しています。
積み立て投資の場合、最大100万円の利益をピークに、2018年12月に損益はマイナスに転じ、ずるずるとマイナス300万円まで損失を拡大することになりました。延々と上がらない株価に長期積立といえどストレスが続く結果になったのではないでしょうか。
一括投資の場合、最大1300万円の利益からマイナス350万円の損失とジェットコースターを味わうこととなり、この場合の精神的苦痛は想像を絶するものになったでしょう。
成長株は、積み立てであろうと一括であろうと、どこかのタイミングで損切を行い、次の銘柄に向かうことが賢明と考えます。この判断基準については次の章で考察したいと思います。
参考までに両銘柄の月足チャートを記載します。(上:サイバーダイン、下:GMO-PG)
銘柄選定を誤った場合どこで積立停止を決断するか
仮に本例のサイバーダインのような誤った銘柄を積立対象に選定してしまった場合、どのタイミングで積立の停止と売却を決断することが適切だったのでしょうか?
サイバーダインの場合2016年の8月に2年の移動平均線を大きく下に抜けておりこのタイミングが適切な損切タイミングであると、今になって振返るとわかります。
一方、成功例のGMO-PGも2016年12月に一時的に2年移動平均線を大きく下に抜けたタイミングがありました。ここもサイバーダインと同じ基準にすると、積立停止の決断タイミングとなります。結果的にこの12月中に株価は切り返し、2年移動平均線をぎりぎりで耐え、その後上昇に転じています。
2年移動平均を割り込んだときの月足チャートを示します。 (上失敗例:サイバーダイン、下成功例:GMO-PG)
どちらのチャートも2年移動平均を一時的に下回ったときの動きには差異はなく、適切な損切ポイントであるかのように見えます。
このあたりの損切基準についてはまだまだ調査の余地があると考えています。両銘柄ともこの時点では損益プラスのため、損益がマイナスになるまで耐えるなどの戦略をとった際にどうなるか、もう少し多くの銘柄でシミュレートをする必要がありそうです。また未来の時点から極端に失敗した銘柄と成功した銘柄をとりあげているため、ランダムに銘柄を抽出した際にどのような結果が得られるかも、後々考察してみたいと考えています。
成長株の積立投資と一括投資まとめ
- 積立投資をすることで、長期間その銘柄の成長に付き合うことができる一方、最大利益は大幅に制限される
- 積立であろうと、一括であろうと結局は銘柄選びがすべてであり、最大マイナス50%程度の損失を許容できるのであれば一括投資のほうが、成長銘柄を選定できた場合は有利である。どの銘柄が時間分散するよりも、銘柄分散するほうが適切なのかもしれない
- 適切な損切タイミングは2銘柄の考察では結論付けられないため、今後の研究テーマとする
2008年のリーマンショック以降、2023年時点で10倍以上を達成している銘柄は東証の全上場銘柄約3922銘柄に対し、約10%の434銘柄あります。(2023年7月21日終値ベース)
10倍株を1つ選択できる可能性が10%あるということは、成長株候補を5銘柄選んだ場合、1銘柄でも10倍株になる確率は41%(1-0.9^4)あり十分大きな利益を得るチャンスがあるといえます。
これからの見解としては、長期の成長株投資では時間を跨いで投資を分散させるよりも、投資する銘柄の選定することがより重要と考えます。また時間分散をせず、自身のリスク許容度の範囲内で一括投資をすることがより未来のパフォーマンスをよくします。
しかし、積み立て投資の利点は無視できません。市場が下落した場合でも、積立投資は投資を持続させるための精神的な耐久力を高めます。その結果、大きな下落が発生したときでも安心して成長株に投資を続けることができるのです。
それでもなお、成長株の価格の下落が不安であるならば、インデックス投資を積立て投資で行うことをおすすめします。インデックス投資は、市場全体の動きを反映した投資なので、個別の成長株への投資よりも価格の変動が緩やかであり、投資初心者やリスクを抑えたい投資家にとって適しています。
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